シャトレーゼ送検に見る「36協定特別条項」の落とし穴 ― 中小企業が陥りやすい3つの盲点とは?

2025年5月、人気菓子メーカー「シャトレーゼ」が、36協定に定められた「特別条項」の適用制限を超える違法な長時間労働により、書類送検されました。
本件は他人事ではなく、熊本県内の中小企業にも大いに関係する重要な警鐘です。
今回は、社会保険労務士としての視点から「特別条項」の落とし穴と実務で気をつけるべきポイントをわかりやすく解説します
今回の事案のポイント
山梨県の株式会社シャトレーゼは、36協定における特別条項の適用回数(年6回)を上回る7回の適用や、1カ月あたりの上限(100時間未満)を大幅に超える113時間47分の時間外労働を行わせていました。この会社は他にも労働基準法(労基法)違反を繰り返していたことから、労働基準監督署に「重大・悪質」と判断されました。
特別条項とは何か?
特別条項付き36協定は、通常の上限(例えば月45時間)を一時的に超える労働を合法化するための例外措置です。しかしその適用には、
- 年6回以内
- 1カ月の上限100時間未満(休日労働含む)
- 2~6か月平均で80時間以内(休日労働含む)
- 年720時間以内
といった厳しい制約があり、逸脱すれば刑事責任も問われます(6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)。
熊本の中小企業が抱える3つの盲点
① 「36協定を出しているから大丈夫」と思い込む
→ 適用条件を超えていれば、協定自体の効力は及びません。
② 運用の記録・証拠が曖昧
→ 誰に何回適用したのか、具体的な記録がなければ指摘された際に反論ができません。
③ 「繁忙期だから仕方ない」が通用しない
→ 業種や規模に関係なく、法律違反に対する処分は等しく下されます。
経営者が今すぐ見直すべきこと
- 36協定の内容と特別条項の運用状況
- 毎月の時間外・休日労働の実績把握
- 労務管理体制(管理者教育・記録の精度)
といった基本事項の棚卸しと改善が不可欠です。
まとめ
一度の違反が、企業の信用や採用力に大きな打撃を与えかねません。
中小企業にとって重要なのは、「現場の実態」と「協定内容」のズレをいかに小さくするかです。
働き方改革が進む今こそ、経営と労務の「足元」を見直す絶好の機会です。
必要であれば、社労士の助言を早めに仰ぐことをおすすめします。
当事務所では、36協定の点検・再設計のご相談も承っています。お気軽にご相談ください。
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